福島県白河市にある『D&Mホールディングス・白河ワークス』です。
東北新幹線の新白河駅から、車で5分ほど、その気になれば歩ける高台に工場はあります。
操業されてから33年。
日本コロムビア時代から、DENON(デノン)、
そしてD&Mと『made in 白河』にこだわった、ものづくりの拠点となってきました。
おそらく、多くの方が想像する以上の規模。突き当りまで約400mあります。
右側の建物が、開発・生産を行う棟。
この他に、耐久性、耐候性などを検査する建物などが、87,000㎡の敷地に建っています。
建物の床面積は33,840㎡。サッカーグラウンド(7,140㎡)の4.7面分という広さです。
東北新幹線が開通した当時、周辺には目立つ建物もなく、
しかも横に長い建物と言う事もあり、新幹線の駅に間違われた・・・というのは、
長年工場に勤めるスタッフにとっては、鉄板のネタの様です。
確かに下から見上げると、DENONの文字が見えない夜には勘違いしそうです。
『白河ワークス』の従業員は220名。
1階が生産ライン。2階が開発設計フロアとなっています。
総務棟の玄関ロビーには、D&M製品をデモするコーナーがあります。
スピーカーが置かれた壁の奥には、今は無き、
日本コロムビアの赤坂本社にあったスタジオを模した、ホームシアタールームがあります。
ロビーの奥に置かれていた写真がこちら。
『3.11』の際の、D&M白河ワークスの被災の様子です。
幸いにも人的被害はなかったとの事ですが、
落ちた天井や、破壊された工場のパーテーション、
崩れた法面など、想像以上の被害を受けていた事がわかります。
工場の床も隆起したり、陥没したりしており、この後の見学の際に、
大きなうねりの様になっているのが確認できました。
この2か月後に仮ラインでの一部製品の生産の再開、8か月後に通常稼働となったそうです。
見学は2階の開発部門から。
開発の最先端の場所ですから、写真等の撮影はできませんでしたが、
余裕のある床面積を活かし、効率よく開発が行われているのが確認できました。
大きなテーブルの上には、開発途中のプロトタイプ機が並んでいます。
廊下を挟んだ反対側には、多くの試聴室が並んでおり、
スムーズに開発機の試聴・チェックが出来るようになっていました。
工場見学後、その内の1室、主にAVアンプの開発を行っている試聴室で、
最新の『2500シリーズ』と、発表間近のAVアンプの試聴をさせて頂きました。
Bowers&Wilkinsの『802SD』を等距離で設置できる、余裕のある試聴室でした。
『設計部門と、製造部門が同一の建物内にある』
これがD&Mホールディングスが誇る、
『made in Japan』ではなく、『made in 白河』というプライドのベースとなっています。
開発現場を通過して、1階の生産ラインへ。
この生産ラインで、全世界で販売されるD&Mブランドの高級機がすべて生産されています。
生産数の約50%弱がAVアンプ。
残りが、HiFi系のアンプと、CD、SACDプレーヤーとの事です。
割合としては、アンプの方が少々多めとの事でした。
静電気を抑える為に、帯電防止の上着とスリッパに履き替えます。
まず最初に入った場所にあるのが、基板にパーツを取り付ける工程です。
自動的に基板にパーツを並べ、ハンダ付けする機械が9台並んでいました。
この機械で、納品された基板・生板と呼ばれるものに、
表面実装パーツ用のクリーム状ハンダの印刷を行ったのちに、
パーツの取付け(実装)、ハンダ付けまでを全自動で行います。
表面実装のパーツは、たいへん小さいものです。
部品サイズと書かれた下にある4ケタの数字が、パーツのサイズを表します。
一番左が、2.1mm*2.5mmを表し、一番右が1.0mm*0.5mmを表しています。
このパーツ(チップ)は、フィルムの様に巻かれて納品されます。
同じようにコンデンサーや、抵抗もテープ状に固定されて納品されてきます。
LISなどの集積回路は、トレーに乗せられて納品されていました。
これらを、自挿機・高速チップマウンターと呼ばれる機械にセットします。
セットされた表面実装パーツは、空気の力で吸い取られ、
とんでもないスピードで、ハンダが塗られた基板の上に置かれていきます。
すべてのパーツをセットした以後、表面実装パーツの耐熱性を考慮した、
オーブンの様なモノの中を通過する事で、ハンダ付けされます。
中はいくつかの工程ごとに綿密な温度管理がされています。
これも、パーツが熱で壊れないようにするとともに、
確実にハンダ付けされるように、計算された工程です。
この工程の機械、1台1億円ほどするとの事ですが、
そのスピードを見ていると、妙に納得してしまいました。
パワーアンプ部の様な、通常の抵抗やコンデンサーを主に使用する基板も、
パーツ挿入とハンダ付けは自動化されています。
抵抗は穴の幅に合わせアシを曲げ、挿入を行います。
横型の抵抗などを挿入した後、縦型のコンデンサーを挿入。
これらの動きと、メカメカしい音は、見ているだけでも楽しく、
機械好きが集まるスタッフは促されるまで、前を動きませんでした。
この後、ハンダ槽に送り込まれ、裏からハンダ付けされます。
流れるハンダはなめらかで鏡の様。
高温であることを忘れて、手を伸ばしたくなります。
以前は鉛の入ったハンダでしたが、全世界的に環境問題への意識が高まるとともに、
鉛不使用の『鉛フリーハンダ』へと完全移行。
現在は、銅と錫を合わせたハンダへと移行しているそうです。
ハンダの性能を100%発揮させるとともに、ハンダ付けの熱でパーツを痛めない様に、
業界の常識から比べると、かなり低い温度でハンダ付けをしているそうです。
ここでの熱によるダメージは、製品寿命に大きく関係するところなので、
ハンダ付けは表面実装のラインも含め、大変気を使っている事が、
生産ラインの責任者の方のお話から、ひしひしと感じられました。
機械ではできないハンダ付け等は、熟練工が手作業で行います。
完成した基板は、専用の通電機器でのチェックの他、目視によるチェックを行います。
LSIなどパーツの底面でハンダ付けされているパーツは、
ハンダ付けミスを直接みる事が出来ませんので、X線掃射を行い1枚1枚チェックされます。
チェックをパスしたものが次の工程に進みます。
ちなみに、上の基板は日本未発売のAVアンプ、
DENON『AVR-X6200W』の9ch分のパワーアンプ基板です。
次の工程では、大型のコンデンサーや、入出力端子など、
大型のパーツを取り付ける『インサート』作業が行われます。
これらの基板へのインサート作業は、基板1枚に1人の担当者が行います。
責任の所存がしっかり分かる様に管理されており、製品のクオリティを支えています。
現代の多品種・少量生産に合わせ、複数の基板を1人の生産者が作成できるよう、
いろいろなアイデアが詰め込まれた生産ラインです。
また、差し込みのミスを防ぐため、どこに何を差すかをナビゲートし、
作業終了後、その場ですぐにチェックも行えるシステムも用意されています。
完成した基板は、組み込まれる前に基板の状態で、
完成された時と同じ内容の、導通等のチェックが行われます。
D&Mの白河ワークスの様に、
基板へのパーツ取付けラインを、組み立てラインのすぐ隣に持っている、
というメーカーは案外少ないとの事です。
試験をパスした基板は、最終組み立てラインへ送られます。
操業されて30年以上経っている生産ラインですが、
隅々まで整理整頓、掃除が行き届いており清潔感があるスペースです。
余裕のあるスペースに、右側にAVアンプ、左側にHiFi製品のラインが並びます。
こちらも、多品種・少量生産という現代の生産体制に合わせ、
ベルトコンベアーによる流れ作業ではなく、
それぞれの製品ごとに、ブースを構えるように組み立てラインが作られています。
当日は、marantzのSACDプレーヤー『SA8005』と、プリメインアンプ『PM8005』、
DENONの輸出用AVアンプ『AVR-X6200W』の組み立てが行われていました。
組み立ては平均5人のチームで行います。
ヒートシンクへの基板の取付けなどは担当者ごとに行いますが、
全体の組み込みは、1人の担当者が行っていました。
組み立てが終わった時点で、すべての入出力端子の導通チェックが行われます。
このチェック用の機器は、一括チェックが出来る優れもので、自社開発されたものです。
組み込みの終わった製品は、一昼夜エージングされたのち、
再度チェックされて梱包され、発送されていきます。
梱包に関しても丁寧に行われており、梱包後も箱等に関して厳しいチェックが行われていました。
生産に携わるスタッフは、全員国家資格を有しています。
この辺りも『made in 白河』のプライドの表れと言えます。
製造工程の体験ということで、
パーツのインサートと、シャーシのネジ止めを体験させていただきましたが、
はっきり言って、私も含め参加者の、そのスピードの遅さと言ったら・・・。
現場で製造する方々の、熟練度合いを再認識させていただきました。
アンプ等の生産ラインを見学させていただいた後、
今ではめずらしいレコード用のカートリッジの生産現場へ。
DENONでは、現在5種類のMCカートリッジを生産しています。
部屋の入り口には、カートリッジの製造に関しての説明パネルが設置されています。
このパネルによると、2014年には、
10,914個のMCカートリッジが、こちらで生産されたとの事です。
生産数は、だいたい年8,000~10,000個位で推移しているとの事です。
生産現場に入る前に渡されたのが、こちらでコイルに巻く直径15μmの銅線。
髪の毛(約70μm)の1/5の太さとの事です。
※μm=0.001mmですから、0.015mmという細さです。
「持ってみてください」と渡されましたが、つまむだけで切れてしまいます。
どうにかつまんでも、指先に銅線の存在はまったく感じられません。
これを『DL-103』の場合、LRの+と-の計4か所分、220回巻き付けるとの事です。
と、説明を受け作業スペースへ。
入った場所は、今までの生産ラインとは打って変わって『工房』という雰囲気の場所です。
現在、カートリッジを生産できる担当者は女性1人。
コイルを巻く機械は、50年にわたり引き継がれ、整備されてきたものです。
昔は、この機械そのものがトップシークレット。
『細い銅線を、切れない様に巻き付ける』、
それが各メーカーのノウハウで、見せるなんてこと自体、有り得なかったそうです。
以前は、コイルを巻く製品ごとに、その都度調整していたそうですが、
現在は『DL-103』『DL-301』等、製品それぞれの専用品として調整されています。
こちらで巻かれたコイルがこちら。
コイルから引き出された銅線には、
今後の作業のためにマジックで3色の色付けがされています。
・・・もちろん手作業。神業です。
この工程だけでも1人前になるのに3年はかかるそうです。
このコイルをベースに取り付けた後、端子にハンダ付けを行います。
『DL-103』は、
「ペーストのハンダを使用するので、比較的楽なんです。」というのは、彼女の弁。
といっても、15μmの細さですから、ちょっと間違えれば、
ハンダの熱で銅線はとけて、切れてしまします。
「モデルによっては糸ハンダを使用するので、そちらの方が難しいです。」との事です。
製品が設計、生産された時と同じものを作り続けるために、ハンダの変更は出来ないようです。
隣で見ていても、作業状況を目で確認できないほどの細かい作業を、
淡々と、正確に、無駄な動きもなく行う熟練の技に、見学したスタッフからため息が漏れます。
このハンダ付けは作業の中でも特に難しく、1人前になるのに5年以上かかるそうです。
まさに職人技であるのと同時に、神業です。
ハンダ付け完了後、同じ部屋の中にある検査・調整室でチェックされた後出荷されていきます。
検査室はパーテーションで仕切られていますが、温度管理の問題もあり中には入れません。
中の室温は20度。この室温は50年変わっていないそうです。
変えてしまうと、微妙に測定値が変わるそうです。
『DL-103』は、長年使用しているユーザーも多く、測定結果を同梱しています。
それらを見るユーザーが、測定結果に疑問を持たない様にする為にも、
この20度という室温を変えることはできません、と最後に話されていました。
通常工場見学は行っていない中、
貴重な体験をさせて頂くチャンスを下さったD&Mホールディングスの皆さまと、
お忙しい中ご対応下さった『白河ワークス』の皆さまに、感謝いたします。
また、すでにDENON、marantz製品をご使用になっているユーザーの皆さま。
ご使用中の機器は、徹底した品質管理の許生産されていました。
その生産体制は、大量生産メーカーというイメージからは遠く離れた、
高級機専門メーカーと同等の生産体制と言えるものでした。
DENON、marantz製品のご購入をお考えの皆さま。
お考えの製品は、設計、生産が一体化され、同一個所で行われる、
『made in Japan』を超えた、『made in 白河』の誇りの許生産されています。
『白河ワークス』を見学させていただいて感じたのが、
製品を作る現場の事を、我々はどの位知っているのだろうか・・・と言う事でした。
設計担当者の製品開発に対する情熱。
その製品を製造し、具現化する現場のクオリティーに対する高い意識。
今回の『白河ワークス』訪問は、それらの製品を販売する私たち(販売店)が、
製造する方々の想いなどをより理解し、ご購入いただく皆さまに、
しっかりとお伝えしていく事が大切だと感じる、貴重な体験となりました。
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